コラム社会労務の基礎知識

残業手当や月給者の最低賃金額の計算で使う「年平均月間所定労働時間」とは

1. はじめに

残業手当の計算方法や月給者の最低賃金の計算方法などで「年平均月間所定労働時間」という言葉が出てきます。
例えば賃金額÷「年平均月間所定労働時間」×1.25=残業単価、最低賃金額×「年平均月間所定労働時間」=月給者の最低賃金などで使います。
残業単価の計算で正確な数字より小さい数字であれば、単価が高くなるので問題はありません。しかし大きくなった場合、単価は低くなるので、正確な数字との差額が未払い賃金になります。最低賃金の場合、実際より低い場合には最低賃金を下回ってしまうこととなります。
このように、あまり焦点が当たらなかった「年平均月間所定労働時間」について、最低賃金額の上昇や賃金請求事件の増加により、問題となるケースが増えてきました。
今回はこのテーマを掘り下げてみたいと思います。

2.年平均月間所定労働時間の計算方法

(1)年平均月間所定労働時間とは
文字通り、年間平均での月の所定労働時間という意味です。歴月は月によって30日や31日の月があり、月によって所定労働時間が違うケースがほとんどです。
また祝日などの関係で、所定労働時間が変動します。
このように月によって違う所定労働時間の平均値を求めたものが「年平均月間所定労働時間」となります。具体的に計算方法を考えてみましょう。

(2)週休2日しか休日がない場合
一年に週の数はいくつあるのでしょうか。
一年は365日。一週間は7日です。365日から7日を割れば一年間の週の数が出てきます。計算すると「365÷7≒52.142週」です。週休2日と仮定すると52周×2日=104日。

これが年間休日数になります。1日の所定労働時間を8時間とすると

「(365日-104日)×時間=2088時間」これが年間の所定労働時間の合計です。
1年の月数である12で割ると「2088時間÷12月≒173.333」。
これが週休2日の企業の年平均月間所定労働時間となります。

(3)週休2日と祝日等が休日の場合
所定労働時間が8時間であると前提した場合、週休2日であれば週40時間という使用者の持ち時間をフルに使っていることになります。一般的な企業ではこの週休2日に祝日や年末年始休暇などが休日として付与されているでしょう。このようなケースはどのように考えるのでしょうか。

①祝日
国民の祝日に関する法律により15日が祝日とされています。ここから会社の所定休日となっていて、祝日と重複している休日を15日から控除します。元日がいい例だと思います。

②夏季休暇や年末年始休暇
夏季休暇を3日、年末年始休暇を12月29日から1月3日とすると6日。元日と重複するので、1日控除しなければなりません。これを前提に年間の所定労働時間数を求めると以下の式になります。

「104日(年間の土曜日および日曜日の数)+15日(年間の祝日の数)+9日(夏季休暇および年末年始休暇の数)-1日(年末年始休暇と祝日が重複する祝日数)=127日」。

これが週休2日の企業の年間休日数です。

土日の数や。所定休日と重複する祝日数、年末年始休暇や夏季休暇等が変動するので実際にご確認をいただきたいのですが、概ね127日とします。

365日から休日数である127日を控除すると238日となります。238日に1日の所定労働時間である8時間を乗じると1904時間となります。

これを12で除すと「1904時間÷12カ月≒156.666」となります。これが年平均の月間所定労働時間となるのです。前者のケースは多い方で、後者のケースは少ない方です。

概ね156.666時間から173.333の範囲内で年平均月間所定労働時間が決まります。
実際に土曜日、日曜日の数や祝日と重複する所定休日数、年末年始休暇等は変動しますので、毎年数えなければ正確な数字は出ませんのでご注意ください。

3.1ヵ月単位の変形労働時間制

1ヵ月単位の変形労働時間制は、1ヵ月を通じて1週40時間を達成しようとする制度です。
賃金計算期間の歴日数を1週間の歴日数である7日で控除し、週の法定労働時間である
40時間を乗ずると1ヵ月の法定労働時間が出ます。
この範囲内で1日の所定労働時間や1ヵ月の労働日を定められる制度です。

・31日の月(1月、3月、5月、7月、8月、10月、12月の7ヵ月)
  31÷7×40=177.142時間

・30日の月(4月、6月、9月、11月の4ヵ月)
  30÷7×40=171.428時間

・28日の月(2月)
  28日÷7×40=160時間

これらを合計すると「177時間×7ヵ月+171時間×4ヵ月+160時間×1ヵ月
=1239時間+684時間+160時間=2083時間」

「2083時間÷12カ月=173.583時間」

これが1ヵ月単位の変形労働時間制を使った場合の上限になります。
実際に運用する場合には、この2083時間をフルに使うことは考えられないので、運用上はもう少し少ない数字となるでしょう。
フレックスタイム制についても同じように考える事が出来ます。

4.一年単位の変形労働時間制

1年を通じて一週40時間を達成しようとする制度です、1年は365日。これに1週間の週の数である7日を除して、1週の法定労働時間である40時間を乗ずれば年間の所定労働時間の上限が出てきます。

「365日÷7日×40時間≒2085.714時間」
「2085時間÷12ヵ月=173.75時間」が上限となります。

この範囲内に収まっていなければ、週40時間を超過していることとなります。

5.まとめ

「年平均月間所定労働時間」についてはあまり取り上げられることはありませんでした。最低賃金の上昇により、月給者の最低賃金額の確認をする際に重要な数字です。
また残業代の計算をする際。実際の数字より大きければ残業単価が低くなり、実際の数字より導き出された数字との差額が未払い賃金になります。
一度しっかりと確認して、実際に役立てていただきたく、今回のテーマとしました。

「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第46回  2013.10.22号」

コラム社会労務の基礎知識一覧へ