人事のブレーン社会保険労務士レポート第182号
改正労働安全衛生法における「産業医の役割強化」について
1.はじめに
働き方改革関連法案では労働者の健康を確保すべく労働安全衛生法を改正して産業医の権限を強化することで労働者の健康確保を行う事としました。
しかし現行法においても産業医の役割は法の求める要求を満たしていない中でこの改正により職場環境が向上するとは考えられません。
これは事業者である企業サイドの問題では無く、産業医の意識の問題であると考えます。
改正法のポイントは「面接指導の強化」と「産業医の事業者への勧告の強化」です。
以下で詳細をお話ししたいと思います。
2.産業医の面接指導の強化
(1)原則の改正
行法において産業医の面接指導は「時間外労働及び休日労働の合計時間が100時間を超える」ことと「疲労の蓄積が認められる」ことであります。
これが改正法においては「時間外労働及び休日労働の合計時間が80時間を超える」ことと「疲労の蓄積が認められる」ことになりました。
100時間から80時間に短縮されたわけです。
労働者からの申し出という要件は変わっていません。
(2)「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務」に従事する労働者の面接指導
前の項でみたように原則は100時間から80時間に短縮されたものの、あくまで労働者の申し出が条件でした。
しかしこの業務については「申し出」ではなく「時間外労働及び休日労働の合計時間が100時間を超えた場合」「面接指導を受けさせなければならない」となりました。
この業務は36協定における時間外労働の上限が対象外の業務であるために確実に面接指導を受けさせるということとなりました。
(3)「特定高度専門業務・成果型労働制」の対象労働者の面接指導
いわゆる高度プロフェッショナルの対象者についても面接指導が義務づけられます。これも100時間です。
この「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務に従事する労働者」と「高度プロフェッショナルの対象者」に関する面接指導については違反すると罰則規定の適用がありますのでご注意ください。
3.産業医の役割についての改正事項
(1)産業医への情報提供
産業医に対して、労働者の健康管理等を適切に実施するために必要な情報を産業医に提供する事とされました。具体的な内容は以下の通りです。
・1ヶ月あたりの時間外・休日労働時間が80時間を超えた労働者の氏名及びその労働者の超えた労働時間に関する情報並びに労働者の業務に関する情報であって産業医等がその労働者の健康管理に必要と認める情報
・健康診断実施後の措置等
(2)産業医の勧告
現行法では、産業医は労働者の健康を確保するために必要と認めるときは事業者に対して必要な勧告が出来ると定められていますが、事業者はそれに対して「その勧告を尊重する」にとどまっていました。
改正法では、産業医から勧告を受けた場合には衛生委員会若しくは安全衛生委員会への報告が義務づけられました。さらにその勧告を受けて行った措置等を議事録に記録し保存することが義務づけられました。
勧告に対して具体的な対応をすることが求められたのです。
ただし、産業医が勧告を出す際には予め事業者に意見を求めなければならないとされ、産業医が事業者と調整する余地を残しました。
権限が強くなったために混乱が生じないようにとの配慮からだと思います。
(3)産業医の業務の周知
「産業医等の業務内容」「産業医等への健康相談の申し出方法」「産業医等の労働者の心身の状態に関する情報の取扱方法」を事業場の常時見やすい場所への周知などにより労働者へ周知することが義務づけられました。
産業医の意識が低い中、周知することにより何を改善出来るのか疑問でありますが、この様な改正がなされましたので対策が必要となります。
4.まとめ
この改正事項については事業者である企業サイドよりも産業医サイドの意識の問題に拠るところが大きいと思います。
産業医に自覚を促し、面接指導等の措置も労災給付の対象として産業医がその業務で儲かる仕組みを作らなければならないと強く思います。
いずれにしても改正法は施行されますので準備を進めて頂きたいと思います。