人事のブレーン社会保険労務士レポート第181号
改正労働基準法における「フレックスタイム制」の詳細
1.はじめに
働き方改革関連法案の中には「規制強化」の規定が多いのですが、中には「規制緩和」の規定があります。
数少ない規制緩和の改正でありますフレックス制度を今回は取り上げたいと思います。
2.フレックスタイム制の概要
(1)フレックスタイム制とは
一般的な労働時間管理制度においては労働者の始業時刻、終業時刻は使用者が決めます。
変則的な勤務であるシフト制なども、勤務表にて始業時刻及び終業時刻を明示することで使用者が指定している事となります。
フレックスタイム制とは、この始業時刻及び終業時刻を労働者に委ねる制度なのです。
もっと分かりやすくいえば始業時刻、終業時刻及び1日の労働時間の長さを労働者に委ねています。
例えば1日の労働時間の長さは使用者が決定し、始業時刻を労働者に委ねる場合、これは始業時刻を労働者が決めた瞬間に終業時刻が定まります。
1日8時間の所定労働時間だとしましょう。この所定労働時間は決まっているが、何時に出勤してきてもいいという制度の場合、始業時刻は労働者に委ねていますが、休憩時間1時間を含めた9時間後が終業時刻となるのです。
ですからこの制度では始業時刻のみしか労働者に委ねておらずフレックスタイム制ではありません。
ただ単に始業時刻の繰り下げを委ねているに過ぎません。
この点をフレックスタム制と混同されている方も多いので触れさせて頂きました。
(2)フレックスタイム制の労働時間管理
フレックスタイム制は原則として1ヶ月を通じて一週40時間を達成させましょうという制度です。
1ヶ月の所定労働時間の上限の計算については「一ヶ月単位の変形労働時間制」と同様になります。
計算式は以下の通りになります。
(賃金計算期間の歴日数)/(一週間の歴日数である7日)
=賃金計算期間中に於ける週の数
上記計算式で計算した(賃金計算期間に於ける週の数)に(一週の法定労働時間である40時間)を乗ずれば、その賃金計算期間に於ける所定労働時間の上限が出てきます。
これに基づき計算すると以下の通りです。
31日の期間
31日/7日*40時間=177時間
30日の期間
30日/7日*40時間=171時間
29日の期間(閏年の二月)
29日/7日*40時間=165時間
28日の期間
28日/7日*40時間=160時間
この範囲内で労働者が始業終業時刻を自由に設定して働けば残業は発生しないということになります。
フレックスタイム制の残業時間は上記時間を超過した場合にのみ発生するのです。(上記計算式では端数を切り捨てている為に正確には分単位で所定労働時間の上限は多くなります)
(3)コアタイムとフレキシブルタイム
フレックスタイム制においても会議等を開催する必要性などから全員の労働者が勤務している時間帯が必要であることもあり、勤務しなければならない時間帯を設けることは可能です。これをコアタイムといいます。始業時刻及び終業時刻を自由に決定できる時間帯をフレキシブルタイムといいます。
自由に決定できることがこの制度の特徴ですからコアタイムの開始時刻とフレキシブルタイムの開始時刻が接近していると「労働者に委ねる」ことにならないので最低でも1時間以上は離す必要があるでしょう。これは終了時刻も同様です。
コアタイムに勤務していない場合には欠勤カットが可能です。
(4)休日は使用者が定める制度
フレックスタイム制において休日は使用者が決めるものです。あくまで労働者に委ねているのは始業時刻及び終業時刻なのです。
3.今回の改正点
(1)最大3ヶ月で一週40時間を達成できるようになりました
今回の法改正で大きく変わったのは今までは1ヶ月を通じて一週40時間を達成する制度でしたが、最大で3ヶ月を通じて週40時間を達成すればいいという制度に変わりました。
3ヶ月のパターンは(31日+30日+31日=92日)、(30日+31日+30日=91日)、(28日+31日+31日=90日)、(28日+31日+30日=89日)、(29日+31日+31日=91日)、(29日+31日+30日=90日)となります。
92日、91日、90日及び89日のパターンということです。
当然2ヶ月でも構いませんので、2ヶ月のパターンもありますが、計算式は同じなので省略いたします。
これも一ヶ月単位の所定労働時間の上限と同様で2ヶ月ないし3ヶ月の歴日数を一週間の歴日数であります7日で除して、一週の法定労働時間の上限であります40時間を乗じたものが所定労働時間の上限となります。
92日/7日*40時間=525.7時間
91日/7日*40時間=520時間
90日/7日*40時間=514.28時間
89日/7日*40時間=508.57時間
特定の3ヶ月においてこの範囲内であれば残業時間とならず割増賃金を支払う必要はありません。
(2)月平均50時間以上の特例
原則は上記の通りですが、特定の月に所定労働時間が集中しすぎてしまうことを防ぐためにその月(賃金計算期間)においての所定労働時間の平均が一週50時間になった場合には、その時間を超えた時間については割増賃金を支払いなさいという規定が設けられました。
単月で50時間というラインの計算については以下の通りです。
31日の期間
31日/7日*50時間=221.428時間
30日の期間
30日/7日*50時間=214.285時間
29日の期間
29日/7日*50時間=207.142時間
28日の期間
28日/7日*50時間=200時間
上記になります。
ここでは月平均をみますので月の歴日数で計算します
(3)労使協定の届出
今までフレックスタイム制では労使協定の締結は必須でしたが、所轄労働基準監督署長への届け出は必要ありませんでした。
今回の改正でも1ヶ月を期間とする場合には届け出の必要はありません。
1ヶ月を超え3ヶ月以内の期間とする場合には労働基準監督署長への届け出義務が生じます。
この点は注意が必要になります。
4.まとめ
今回の改正でフレックスタイム制は使いやすくなった反面、今までは月の所定労働時間を超過した場合にのみ割増賃金が発生しましたが、今回の改正で1ヶ月を超える期間の制度を導入している場合、月平均週50時間を超えた時間に対して割増賃金が発生します。
複雑な計算になりますので、勤怠管理システムなどの修正が必要になりますのでソフトハウス等に問い合わせをしなければなりません。
積極的に活用して残業時間の削減に繋がるように取り組んでいきたいものです。