KNOWLEDGE OF PERSONNEL AND LABOR

人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第179号
改正労働基準法における「残業規制」の詳細

1.はじめに

働き方改革関連法案が成立し、いよいよ準備をしなければならなくなりました。
今回はまず実務上非常に大きい「残業規制」について取り上げたいと思います。

2.残業規制と36協定

(1)残業規制の概要

現行の労働基準法においても残業規制はされています。
1ヶ月45時間、1年360時間(一年単位の変形労働時間制においては1カ月42時間、1年320時間)となっており、36協定において特別条項を締結すれば6カ月に限り45時間を超え青天井に時間外労働時間数を設定することが出来ました。

この青天井を見直そうということが今回の改正です。
現行法においても36協定を遵守出来ていない企業は少なくないのですが、今回の改正により更にその数は増えていくでしょう。
現行法では限度時間を1日、1日を超える一定期間、一年と定める必要がありましたが、「1日を超える一定期間」が一ヶ月に統一されました。
賃金計算期間は一ヶ月ですからそれに合わせて厳格に管理をしなさいということでしょう。
そしてその上限は100時間未満とされ、一ヶ月あたり平均で80時間を超えては成らないとなっています。

(2)集計上の注意点

現行法では36協定に於ける上限時間は時間外労働(法定労働時間を超過した労働時間)だけでした。所謂割増賃金率が2割5分増しの時間です。
改正法では、一ヶ月の集計に関してはこの時間外労働に加えて法定休日労働も含めてカウントされます。所謂割増賃金率が3割5分増しの時間も合算されるということです。

ここがポイントです。この合算された労働時間が年6回を超えて45時間を超過したら違反となります。
しかし次の点に注意が必要です。
月の集計は2割5分増しと3割5分増しを合算しますが、年間の上限には2割5分増しの賃金のみになります。
月の残業規制は「法定労働時間を超えた2割5分増しの時間」+「3割5分増しの時間である法定休日労働」を合算したもの。

年間の残業規制は「法定労働時間を超えた2割5分増しの時間」のみに成るのです。

分かりやすくお話しすると法定休日労働は週に一回休みが取れない場合であり、週休2日のうち土曜日に出勤して、日曜日は休んだという場合には一般的には法定休日は日曜日ですから休日の振替を行わない限り土曜日の出勤は残業時間に入ります。
会社によっては土曜日の出勤にも3割5分増しの賃金を支払っている場合もありますが、法定休日が日曜日である場合には原則として月の集計には入れなければ成りません。
法定休日労働と所定休日労働をしっかり分けて集計する必要が出てきます。

(3)年間の上限時間

年間の上限時間は720時間となっています。
しかし前述の通り年間の集計には「法定休日労働」はカウントされませんから理論上は「年間を通して一ヶ月80時間を超えない」というルールから、80時間に12カ月を乗じた960時間が上限になります。
この点も36協定に関する注意事項です。

(4)超えてはいけない上限時間

上限規制については上記の通りですが、冷凍庫内の業務等有害業務について、元々時間外労働は1日2時間とされており、それは改正法においても同様となります。
また当然に一ヶ月の時間外労働と法定休日労働の合計が100時間未満とされており、それに加えて2カ月ないし6カ月平均で時間外労働及び法定休日労働の時間数が一ヶ月あたり80時間を超えない事とされています。

(5)通常予見することが出来ない業務量

現行法では曖昧でしたが、新法では特別条項の適用は「通常予見する事が出来ない業務量の増加」に限るとされています。
特別条項を適用しない場合の36協定の限度時間は事業場の業務量、時間外労働の動向その他事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において限度時間を超えない時間に限るとされています。
予見できない業務量の増加で臨時的な業務が特別条項の対象であり、恒常的な忙しさや、予見する事が出来る忙しさなどは対象外になります。
引っ越し屋さん、飲食店など繁忙期があり、しかも一年単位の変形労働時間制に対応できない業種については非常に厳しい内容になっています。

3.残業規制の適用除外

(1)新技術・新商品等の研究開発業務

以下が適用除外になっています。
・通常予見する事が出来ない業務量の増加に限るという特別条項の運用
・一ヶ月45時間、一年360時間の制限がない
・特別条項のルールが適用されず年6カ月の制限や一ヶ月100時間未満及び年間720時間の規制が適用されない
・100時間未満及び2カ月ないし6カ月の時間外労働及び休日労働の一ヶ月平均80時間の制限がない
現行法でも同様の措置があるため引き続きの措置が執られたものと思われます。

(2)工作物の建設の事業

 (a)災害復旧事業
  100時間未満と2カ月ないし6カ月平均1カ月あたり80時間は当分の間適用されない

 (b)災害復旧事業以外
  平成36年4月1日より適用される(それまでは猶予措置として適用除外)

(3)自動車運転の業務

平成36年4月1日(36協定の期間により例外あり)それ以降も一ヶ月45時間を超える回数の制限は適用されず年間の上限は960時間となります。

(4)医業に従事する医師

平成36年4月1日より適用される(36協定の期間により例外あり)さらに医師の労働時間規制の具体的なあり方について厚生労働省令で定めるとされており、働き方改革が救急医療等の崩壊に繋がらないような議論が5年を掛けて行われるということです。

(5)中小企業

資本金または出資金の額が3億円(小売業またはサービス業を主たる事業とする事業主は5,000万円、卸売業を主たる事業主とする事業主については1億円)以下である事業主及びその使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業またはサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下の事業主については平成32年4月1日以後の期間のみを定めている36協定から適用されることとなります。
中小企業への猶予はたった一年しかないということです。
大変に厳しい内容です

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