人事のブレーン社会保険労務士レポート第169号
平成29年度最低賃金額の改正
1.はじめに
平成29年10月1日より東京都の最低賃金額は26円引き上げられて 958円となります。最低賃金額の引き上げは拘束時間の長い業種にとっては大変に厳しいものとなっています。
最低賃金額上昇を価格転嫁出来ず、パート社員やアルバイトの賃上げがなされます。
非正規社員の待遇改善というと聞こえはいいですが、実際は違います。
最低賃金の上昇とは、初任給の上昇です。
所謂階段の一段目の上昇。
価格転嫁出来ていませんから、最低賃金額の上昇により総人件費を増やすことは出来ません。ですから昇給額の縮小をしなければなりません。
最低賃金額はパートタイマーやアルバイトにも適用されますから、新入社員の時給が上昇します。階段の一段目が上昇していますが、総人件費は増やすことが出来ません。ですから二階の高さを変えることが出来ないのです。
同じ高さを昇るのに、一段目の高さである最低賃金額を上昇させたわけですから、二段目以降は階段の高さを低くしないと同じ高さを同じ段数で昇ることが出来ません。
具体的にどの様なことが起きているのかというと、高校生などのアルバイトの賃金額は上昇します。しかし、熟練したパートタイマーなどは総人件費を増やせないわけですから、賃上げ余地が極めて少ないのです。
結果として、新入社員と熟練した社員との賃金格差がなくなるということが生じています。
また、所得税法上の非課税範囲内で働くパートタイマーの方も多いと思いますが、最低賃金額上昇により「働ける時間」が少なくなっていきています。
人手不足に拍車を掛ける事態になっています。
最低賃金額の上昇より、企業が総人件費を増やせる環境を整えなければ、正社員や熟練したパートタイマーの賞与と昇給原資が、最低賃金額への補填により減少してしまう事となります。
各業界団体もこの実情を政府に訴えているようですが、理解してもらえないようです。
各業界非常に厳しいですが、実務的なポイントは最低賃金額の上昇によってさらに重要になってきますので、以下でお話をしたいと思います。
2.最低賃金額の計算
最低賃金額は時給で958円です。日給であれば最低賃金額に働いた時間を乗じたものが最低賃金額になります。時給と考え方は変わりません。
問題は月給者の最低賃金額の考え方です。
月給の最低賃金の計算方法は、年平均の月間所定労働時間に最低賃金額を乗じます。
では、年平均の月間所定労働時間とはどの様に出すのでしょうか。
年間労働日数に1日の所定労働時間を乗じて、12で除したものになります。年間労働日数が260日で1日の所定労働時間が8時間の会社の場合には260日に8時間を乗じた2080時間が年間の総所定労働時間。
これを12で割れば年平均の月間所定労働時間173.333が出てきます。
四捨五入をして173.3で計算すると、この会社の月額の最低賃金額は173.3時間に958円を乗じた166,021円になります。
週休2日で祝祭日も休みという会社の年間休日数は120日を超える事もあるので、年間労働日数が少なくなり、最低賃金額も少なくなります。
しっかりと計算して頂きたいのですが、概ね年平均月間所定労働時間は160時間から173.5時間の間に収まります。 173.5時間は祝祭日や年末年始も休めない小売業や飲食業などです。
これを月額の最低賃金に換算すると153,280円から166,213円の範囲内になります。
上昇した26円を月額換算すると4,160円から4,511円になりその上昇額の大きさがご理解頂けると思います。
総人件費を上げられる経営環境にするためにどの様にしていくのか。効率のいい職場環境を作り、人員を減らして総人件費をいかに抑えていくのか。
これからの経営課題はここにつきると思います。
実務に役立てて頂けると幸いです。