KNOWLEDGE OF PERSONNEL AND LABOR

人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第126号
消費税率引き上げと賃上げとの関係

1. はじめに

消費率税が5%から8%に引き上げられるとどの様になるのでしょうか。
賃金の引き上げ余地があるのかどうか。
 消費税率引き上げと賃金との関係について今回はまとめてみました。

2. 5円は誰のものか

Aくんはチョコレートを買いにコンビニエンスストアに行きました。
レジで105円を支払い、チョコレートはAくんのものになりました。
Aくんはこのチョコレートを自分で食べても、人にあげてもいいわけです。

さて、このAくんが支払った105円の内訳はどうなっているでしょう。
チョコレートの価格が100円と消費税が5円となります。

消費税額である5円は誰のものでしょう。
お店のものではありませんよね。
消費者からお店が預かって税務署に納めます。
あくまで預かっているのです。
この5円をお店が自由に使ってはいけないのです。
この様にしてお店が預かった消費税額は税務署に申告され納税されます。

消費税が引き上げられて8%になった場合にはどうなるのでしょうか。
100円のチョコレートは108円をお店に支払わなければAくんのものになりません。
同じチョコレートをAくんのものにする為に3円余分にかかります。

この余分にかかった3円は誰のものでしょうか。
引き上げられた消費税ですから国のものです。

お店は消費税額の納税が5円から8円になったにすぎません。
お店は受け取るお金は増えましたが、チョコレートの100円という価格は変わっていませんから消費税の引き上げにより利益が増えるということはありません。

3. お小遣いが実質的に目減りする消費税引き上げ

消費税率の引き上げにより、今まで105円で買えていたチョコレートが108円出さなければ買えない事となりました。
1,000円のお小遣いでチョコレートを9個買った場合には55円余りました。
この55円で他のものを買うことが出来ます。
これが108円になった場合、28円しか余らなくなります。
これでは55円-28円=27円分の購買力が落ちてしまいます。

4. 税率を上げることより税収を上げることが目的

 消費税は一年間で10兆円集まるといわれています。
5%で10兆円ですから、10兆円÷5%=2兆円/1%
8%になるわけですから16兆円にならなければ消費税を引き上げた意味があ
りません。
 しかしお小遣いや賃金が上がらなければ購買力が落ちてしまいます。
1,000円というお小遣いが変わらなければ27円分の購買力が落ちることとなります。
購買力が落ちるということは消費が減り、景気が悪くなります。
景気が悪くなると税収が落ちてしまいます。

消費税引き上げの目的は「税収を上げること」です。
10兆円が16兆円にならなければならないのです。

しかし消費税引き上げにより、賃金額が変わらないという前提であれば購買力が落ち、消費が冷え込み税収が減少してしまいます。

1,000円という使えるお金が変わらないのであれば、買うものを減らす事しか出来ないからです。

これを解決するには賃金額を引き上げることです。

5. どうすれば賃金額を引き上げる事が出来るのか

賃金額を引き上げるためには売上げを増やさなければなりません。
売上げを増やすには2つの方法があります。
第一は、お客様の数を増やす。
第二は、商品の単価を上げる。
両方同時に出来る事が理想ですが、個々に検討をしてみましょう。
ここでは税抜き価格で考えます。
一個100円の商品があったとしましょう。
この商品を売るためにかかるコストは95円としましょう。
1,000個売ると、100円×1,000個=100,000円の売上げになります。
コストは95円×1,000個=95,000円となります。
利益は50,000円です。

当たり前ですが、消費税率が3%引き上げられようとも、この税抜き価格は変わらないわけですから利益は変わりません。

単価が変わらずにお客様の数が倍になったと仮定しましょう。
売上げ 100円×2,000個=200,000円
コスト  95円×2,000個=190,000円
利益は10,000円です。
売上げが倍になったことにより利益も倍になりました。

利益が倍になったから賃金を上げることが出来るでしょうか。

一人で1,000個販売していて、2,000個になっても一人で販売出来るのであれば、人件費コストは変わらないのでコストが下がり利益が増えます。
しかし、販売量が倍になったのに人件費が変わらないということは考えにくいです。
仮にこの様な状態にあったとすれば、1,000個の販売量は極端に少なかったということになるのです。
通常であれば、販売量が増えればその分のコストも比例して増えていくのです。
売上げが上がっても、コストは増えますから賃上げ余地は少ないという結論になってしまいます。

お客様の数が変わらずに、単価が変わった場合はどうでしょうか。
商品単価が100円から103円に引き上げられたとしましょう。

売上げ 103円×1,000個=103,000円
コスト  95円×1,000個= 95,000円
利益は8,000円です。

1,000個の販売量を前提とすると同じコストで3,000円の利益が増加しました。

商品単価が上がると、同じコストで利益が増加するのですから賃上げ余力が出てきます。

6. 賃上げより取引価格を引き上げることが大切

政府の政策として「賃上げ」を目標としています。
これは間違っていないと思います。
価格決定権の無い企業は、仕事が増えても単価が変わらないために利益が確保出来ないという問題を抱えています。
価格決定権のある企業は、賃上げの原資に利益をまわせますが、中小企業は単価の引き上げどころか、消費税増税分の価格転嫁が出来るかどうか不安を抱いています。
この様な状況では、賃上げ余地はありません。
単価が変わらないにもかかわらず、最低賃金の上昇、社会保険料の上昇、原油価格の上昇などコストが上昇しています。
中小企業が賃上げをする為に必要なことは「取引価格の引き上げ」なのです。
大手企業が政府の政策に合わせて「賃上げ」していますが、「中小企業との取引価格を引き上げる原資」まで賃上げに遣われては末端まで「賃上げ原資」が行き渡りません。
政府が本気でデフレ脱却を目指すのであれば、「取引価格の上昇」を主たる目的として政策を進めていかなければなりません。

7.まとめ

今回は「消費税と賃金」「売上げと賃上げ原資」について考えてみました。
私のお客様と打合せをしていて、新聞報道などによる景況感と実際の感覚の乖離があることが気になり、今回のテーマとしました。
中小企業の賃上げ原資が確保出来る様になることを願ってやみません。

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