人事のブレーン社会保険労務士レポート第116号
定額残業制度の思想とは
1. はじめに
定額残業制度を導入しようとする企業が増えています。
そもそも定額残業制度を導入するにあたり、どの様に考えて行けば良いのか。どの様な考え方で生まれたのか。
今回はここを掘り下げていきたいと思います。
2. 残業代の予算化
未払い残業がある。この理由は、残業代が予算化されていないからです。「この社員なら30万円の人件費を負担する価値がある」と考えて、賃金額を30万円にしてしまっては社会保険料も払えません。
この賃金額には当然残業代を考慮して基本給を決定しなければなりません。基本給を30万円にしてしまっては、残業代は支払う事は出来ません。予算オーバーになるからです。
この様に未払い賃金を解決するためには、残業代の予算化は避けられません。人件費の範囲内で残業代を支払う為にはどうしたら良いのでしょうか?
3. 固定的賃金の減少
仮に人件費予算の賃金額の上限が30万円であれば、残業代を支払った場合でもこの30万円を超える事が無いように予算化をしなければなりません。
これは基本給をはじめとする固定的賃金を減少させる事となります。36協定で特別条項を締結して、1ヶ月の残業時間の上限を60時間としている場合には、36協定上、60時間まで残業をさせることが出来ます。
60時間の残業をしても、人件費予算の賃金額の上限である30万円を超えないようにする為には、固定的賃金を60時間の残業を考慮して設定する必要があります。
逆算すると基本給は概ね207,350円程度。
計算式は以下の通りです。
207,350円÷168=1,234円
1,234円×1.25=1,542.5円=1,543円
1,543円×60時間=92,580円
基本給 207,350円 + 残業手当(60時間) 92,580円= 299,930円
人件費の予算額を超えないためには、基本給を207,350円にしなければなりません。
4. 賃金額の減少を抑える制度
毎月60時間の残業をしていれば、問題はありません。しかし閑散期などで残業が極端に少ない場合には、人件費の予算額を大きく下回る207,350円に多少の残業代を上乗せした賃金額になります。
残業代をきちんと支払う為には、この様に残業代を含めた賃金額を予算化して、管理していく必要があります。
その結果、この社員の生活は不安定になってしまうのです。一方経営者は、あくまで30万円は予算上支払っても良いのです。
残業をしないで成り立つ職場はほとんどありません。
この残業代を変動費にせずに固定費にする。
これが定額残業の考え方です。
予算化した残業手当を変動費にしてしまって、社員の生活を不安定にする事の無いように固定費にする。
これが定額残業の考え方なのです。
この思想をしっかりと踏まえて、制度設計や導入の説明会を行えば社員も理解をしてくれるのです。
ましてや労働者の残業代節約のための制度であるとの誤解に対してもしっかりと主張していかなければなりません。
残業代をしっかりと支払い、未払い残業を無くすという目的達成のためには定額残業は労使双方にとって良い方法なのです。