人事のブレーン社会保険労務士レポート第209号
職場における任意のPCR検査の注意点
1.はじめに
新型コロナウイルス感染拡大により職場において労働者に対してPCR検査を受けさせたいというご相談が増えてきました。
この場合の労務管理上の注意点をお話ししたいと思います。
2.労働安全衛生法による健康診断
年に一回は健康診断を受けさせなければならないということは皆さまご存じでしょう。
労働安全衛生法では一般健康診断と深夜業等に常時従事している労働者に対する特殊健康診断を受診させなければならないとされています。
診断項目は労働安全衛生法で定められており、その項目について実施しなければならないとされています。
健康診断の結果は個人情報であり、個人情報保護法では「要配慮個人情報」として他の個人情報より厳格に管理をすることが求められています。
体重から血液検査の内容等が含まれますから当然といえば当然です。
そしてこの労働安全衛生法による健康診断結果については労働者本人の同意なしに会社は取得できる個人情報になります。
一般健康管理責任を会社は負っており、健康診断結果に基づいて衛生委員会などを通じて審議して各種対策を行うこととされており、産業医や衛生管理者もそれぞれ役割があるわけです。
3.労働安全衛生法による健康診断結果以外は労働者の同意なく取得することができない
前述の通り労働者の健康や就労環境を守るために健康診断結果を使う関係上、労働者の同意なく診断結果を取得できますが、法律で定められた項目は労働者の同意が必要になります。
よく一般健康診断時にオプションで乳がん検診や子宮がん検診を行うケースがあります。
これらの疾患は早期発見することにより多くの命が助かるのですから実施するべきですが、この検診は法律に定められておりませんので労働者の同意がなければ取得できません。
健康診断結果が一枚の紙になっており、法律に基づく検査結果とそれ以外の検査結果が一緒になっている場合には労働者の同意がなければ診断結果の紙をもらうことはできません。
同意が必要な個人情報を取得してしまう為です。
ですから予め同意を取っておくか、法律に基づく検査結果だけ別の紙で出してもらえることができるのかという選択になります。
この様に労働安全衛生法で定められている健康診断結果でも色々と配慮する必要があるのです。
4.PCR検査について
健康診断の際の注意点をお話ししました。
PCR検査も広義の意味においての健康診断といえますから同じ枠組みで考えなければなりません。
ここでいうPCR検査とは企業等が無症状のものに行う検査であり、保健所や医療機関の指示により症状があるものや濃厚接触者として検査をする場合は除きます。
PCR検査の結果は個人情報であり、法律に基づくものではないですから「PCR検査結果を収集する目的」を明確にしてそれ以外の目的で使用しないという目的外利用の禁止についても明示する必要があります。
PCR検査を行う目的を明確にして、陽性となった場合にはどの様な処遇となるのかを明示する必要があります。
また法律的に任意の検査である以上、検査を拒否する労働者に対しては懲戒処分にすることはできません。
5.医師と連携しているPCR検査の実施を
無症状者に行うPCR検査は任意の検査ですから保健所は対応してくれません。
検査を行う場合には必ず陽性となった場合にはどの様な流れとなるのかを事前に確認しておく必要があります。
検査会社や実施する医療機関が陽性者の入院先を確保してくれるのか。
これが非常に重要です。
民間の無症状者に対するPCR検査について保健所は対応してくれません。
自分で探すしかありません。
しかも陽性者ですから診てくれる医療機関も絞られてきます。
また、同居のご家族や同僚にも大きな影響がでてきてしまい、この方々も基本的に自分で対応する必要があります。
PCR検査キットに書いてありますが、検査は病気の検査をするものではなく、あくまでこの検査結果をもとに医師が診断をして確定するものです。
陰性とされた方でも肺炎の所見があり入院した方もおりPCR検査が絶対ではないことは報道の通りです。
6.まとめ
- 労働安全衛生法に基づく検査結果以外は労働者の同意がいること。
- 利用目的を明確にすること。
- 検査を拒否する労働者に対しては懲戒処分を行うことはできないこと。
- PCR検査で陽性が出た場合速やかに対応してもらえる体制になっている検査かどうか確認する事。
- PCR検査の信頼性は低いということを前提に実施すること
以上がまとめになります。