KNOWLEDGE OF PERSONNEL AND LABOR

人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第208号
在宅勤務の労務管理について

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症により2回目の緊急事態宣言が出されました。
これを機に在宅勤務を始める企業が増えてきました。

今回は在宅勤務の法的な注意点についてお話をしたいと思います。

2.在宅勤務とは

(1)概要

在宅勤務とは「就業場所」を「自宅」とする勤務形態です。
企業によっては所謂喫茶店等の場所での勤務を認めているケースがありますが、基本的に自宅で行う勤務となります。

ですから労働基準法上は、就業場所だけが自宅という特殊な場所での労務提供となるだけで、法の適用は変わりません。

しかし自宅で勤務するということは職場とは違った問題もあります。
例えば子供やペットと同居していると、自分のペースで仕事ができないという問題。

弊社の職員は子供も自立しており、ペットもいないので顧問先からの問い合わせ電話がなく、仕事がはかどるという感想でした。

しかし、多くのケースではそうではありません。在宅勤務の場合には保育園に預けることを控えるようにという通達を出している市町村もあります。

会社としては労働者がどのような環境で仕事を行うのかを把握する必要があります。
理由としてはそれによって労働時間管理の方法が違ってくるからです。

(2)仕事に集中できる自宅環境

仕事に集中できる自宅環境であれば集中して仕事を進めることができます。
始業時刻に業務を開始して、休憩を取り終業時刻に業務を終える。
終業時刻が所定労働時間を超える場合には残業手当の支払いが必要になります。

この様なケースは自宅と職場での労働時間の使い方が同じであり、労務管理しやすい環境です。

始業時刻と終業時刻については、職場で行う時刻と同じにする必要はなく、一日の所定労働時間を変えずに繰り上げ、繰り下げをしても支障がなければそのような取り扱いをすることもありでしょう。

しかし深夜時間帯に就業時間が入ってしまうと深夜手当を支払う必要があり、深夜時間帯の就業は禁止するというルールを設ける必要もあります。

(3)仕事に集中できにくい自宅環境

自宅で育児をしながら勤務するケースなど、職場での始業時刻や終業時刻と同様に取り扱うことができないケースがあります。

この場合の労働時間管理はどのようにするべきなのか。

労働基準法第38条の2で規定する「事業場外のみなし労働時間制」の適用を検討するべきです。

これは営業職など事業場外で労働をし、その労働時間の算定が難しい場合に、一定の労働時間を働いたものとみなすとい制度です。

今でこそ携帯電話等の普及により事業場外にいても労働者が何をしているのかの把握は可能です。

ですから事業場外のみなし労働時間制を適用する企業は少なくなってきました。
しかし平成16年3月5日基発第0305001号により一定の条件を満たした在宅勤務については、事業場外のみなし労働時間制を適用できることとなりました。

要件は3つあり、第一は当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。第二は当該通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。第三は当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。このいずれも満たす場合に可能となります。

第二については、常時通信が可能であっても「即応する義務がない状態」、即ち使用者が情報通信機器等を用いて労働者に随時指示を行うことが可能であっても、その具体的な指示に備えて実作業を行いながら待機する必要がなかったり、手待ち状態で待機する必要がない状態であります。

第三を満たすためには、期限等の基本的な指示にとどまる場合です。

(4)事業場外のみなし労働時間制

事業場外のみなし労働時間制については前述のとおりですが、「みなし労働時間」については実態に合ったものにしなければならないとされています。

専門型裁量労働制など「質」を重視したみなし労働と違い、事業場外のみなし労働時間制は「量」を基準に判断します。

ですから職場での作業量とそれにかかる時間を踏まえて「みなし労働時間」を決定する必要があります。

この「みなし労働時間」が適正でない場合、みなし労働時間制度を否認される可能性もあるので注意が必要です。

また、所定労働時間を超えて「みなし労働時間」を設定する場合には労使協定が必要になります。

(5)その他の労働時間制

最初にお話ししました通り、在宅勤務とは勤務場所を自宅にしただけにすぎません。
ですから「フレックスタイム制」「専門型裁量労働時間制」「企画型裁量労働時間制」をはじめ様々な制度の適用は可能であります。

3.労働安全衛生法との関係

在宅勤務であっても労働であります。

労働である以上、労働者の健康管理が必要になります。
事業場外のみなし労働時間制や専門型裁量労働時間制であっても健康管理の為の勤務時間の把握が必要になります。

携帯電話等でのやり取りの場合、その時間の範囲を決め労働者のプライベートな時間帯の確保も必要になってきます。

前述の通り深夜時間帯に労働すると深夜手当の支払いが必要になります。
この点を考慮して働き方を決める必要があります。

4.まとめ

職場では皆が同じような職場環境で働いており、個人情報等を含めた情報管理や人事管理がやりやすいのですが、自宅を就業場所とすると自宅の環境や家族構成等に左右され、それぞれの環境に合わせたルールを作る必要があります。

東京都のテレワーク助成金をはじめ在宅勤務の環境を整えるきっかけがありました。
ハードが整っても労働法制や個人情報等の保護といったソフトを整えなければ在宅勤務ができません。

本稿では問題提起を中心に書きましたが、それぞれの環境に合わせて労使間でしっかりと話し合っていただきたいと思います。

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