KNOWLEDGE OF PERSONNEL AND LABOR

人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第203号
人材採用の視点で見たコロナ禍における日本人の肩書信仰と雇用のミスマッチ

1.はじめに

新型コロナウイルス感染拡大により夏休みも帰省をせず生活圏内で過ごされている方も多いと思います。
コロナ報道を見て、日本人の肩書信仰というものがあり、それによって企業と労働者のミスマッチを起こしているのであると考え今回のテーマとしました。
今後の採用活動の参考にしていただければと思います。

2.日本人の肩書信仰

東京大学名誉教授やノーベル賞受賞者ときくと凄い人なんだろうと思います。努力をされてその地位に行ったわけですから間違いなく凄い人なのでしょう。
その凄い方が情報発信すると「東大名誉教授がこう話している」「ノーベル賞受賞者が後半している」とあたかもそれが真実のように信じてしまうのが日本人の肩書信仰なのです。

マスメディアの番組の制作についても同様の肩書信仰をベースにされており、コロナに関しては「感染症の専門家」である医師や教授といった肩書が連日テレビに登場しています。
マスメディアはその報道の意図に沿った専門家を集めて番組を制作しています。マスメディアの意に沿わない意見を言う専門家は出演できません。
多くの専門家は一般の方に名前を知られておりませんので、詰まるとこと「インパクトのある肩書」が勝負になります。

同一人物が「WHO上級顧問」から「イギリスの研究所長」に肩書が変わってテレビに出演している姿を見て「人物」より「肩書」を信仰する日本人の性質に合わせた番組つくりをしていると感じました。
「こんな凄い肩書の人が言っているから間違いない」という日本人の感覚がコロナ報道で日本が右往左往している原因であろうと思います。

3.帰納法と演繹法

新型コロナウイルスが流行し始めたとされる今年の2月以降、演繹法で対策を考える専門家が多いです。ウイルスはどのような性質なのか、抗体はできるのか、どのように人に移るのか等です。特に医学の世界では研究で明らかになっていることをエビデンスといい、エビデンスがないことは信じるに値しないという世界です。
演繹法で考えると新型コロナウイルスは未知のことが多いから怖いという結論になる傾向があります。
一方帰納法で考えると、2月から6か月間のデータを分析してみると日本においては死亡者数が少ないし重症になる方のほとんどが基礎疾患のある方なので過度な自粛をすることは経済活動を衰退させ失業率を上げてしまう。
そのことによる自死の方が多くなるので宜しくない。コロナウイルスはそれほど恐ろしくないという結論になる傾向があります。
しかし帰納法で考えた場合、医学の世界で大切なエビデンスがありません。ですから「集団免疫」とか「自然免疫」といった仮説を信用しないものであるとしてしまうのです。
SNSでこの仮説を批判しているマスコミでは有名なウイルス学舎の方が免疫学の権威といって見たけれど「特任教授」や「特定教授」じゃないかと仰っていました。
やはり学者の世界も「肩書信仰」があるのだなと思うわけです。
しかし未知のウイルスの対策を考える場合、演繹法だけでは無理があり、帰納法での分析と総合して考えていかなければなりません。日本人の「肩書信仰」によりそれが阻害されていることと感じております。

4.肩書信仰と採用活動

景気が悪くなり失業率が増加すると資格を取得しようという方が増えてきます。
転職の際有利になるからと考える方が多いのでしょう。
資格も肩書です。宅建や衛生管理者など一定の人数に何人いなければならないという資格は転職に有利になる可能性もあります。
しかし資格を取得したからと言って転職が有利になることはあまり考えられません。
社会保険労務士事務所で働きたいから社会保険労務士の資格を取得するということは有利でしょう。
しかし採用活動で、即戦力を求められている場合には「肩書」はあまり意味がありません。
肩書=即戦力ではないからです。
採用活動では「経験」が重視されます。日本人の肩書信仰が雇用のミスマッチを生む理由はここです。
求職者は「肩書」をアピールしてくる。これは今まで述べてきたことが理由です。
採用側は「経験」を求めているのです。
「人事の仕事を20年やってきて社会保険労務士の資格を取得した」場合、経験と肩書がありますから採用は有利になります。
しかし経験がなければ即戦力にはなりません。
法律系の資格は資格取得に意味はありません。資格を取得して常に経験を積まなければ法律は頻繁に変わりますし、人との交渉という経験も重要ですから資格取得が就職活動に有利になることはありません。例外として採用活動をしている担当者が「資格信仰」の価値観で行っている場合には有利になることもあるでしょう。
しかし経験値の高い採用担当者は「経験」を重視しますから、新鮮な経験の伴わない資格は評価しないことが多いでしょう。

5.経験の棚卸をすること

ミスマッチを防ぐためには経験の棚卸をすることです。
外食産業から弊社に転職してきた方は「優先順位が常に変わる中で、柔軟な対応ができる」というアピールでした。外食産業は商品の提供をする際にお客様に声をかけられたり、会計や席の案内など常に優先順位が変わる世界です。
そこでの経験は社会保険労務士事務所でも役に立つのです。
また高校中退の方が宅建の資格を持っていて、それを尋ねると「大検は取りませんでしたが、その代わりにと宅建を取りました。ただの高校中退と思われたくなくて。」という方もいらっしゃりました。これも資格取得による就職活動を有利にする方法として有効であると思いました。
「肩書」というものはわかりやすく、アピールしやすいのですが、それに経験がなければ就職活動が有利になりません。
逆に資格がなくても「経理を20年やっていました」「会計事務所で10年働いていました」という方が企業は採用するでしょう。
資格を否定しているわけではなく、資格という「肩書」だけでは就職活動が有利になることはありません。
学生の頃「宅建の資格に合格したら民法の物権の単位やるよ」といわれ宅建に合格した友人がいましたが、学生時代の資格取得は学生時代に勉強した証ですから素晴らしいのですが、その資格があるが故に希望の配属につけない場合もあるので注意が必要であると思います。

6.まとめ

テレビはあまり観ないのですが、テレビ報道に対する問題提起をしている記事を目にします。
それらの記事を読むうちに「肩書信仰」があることに気づき、これによって企業が求めている「経験」とのミスマッチがある。また、採用側にも肩書信仰があり、それによってミスマッチや離職率の増加につながってしまうということが理解できました。
コロナウイルスによる不況が深刻化し、少数精鋭で経営をしなければならない企業も多くなるでしょう。
その際にこのことを思い出していただきお役に立てれば幸いです。

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