KNOWLEDGE OF PERSONNEL AND LABOR

人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第192号
働き方改革の問題点

1.はじめに

来年の4月から始まる中小企業への残業規制拡大へ向けて労働基準監督署が労働時間の調査をしています。
来年4月へ向けて対策を立てさせるために調査を行うというものです。どの様な視点で調査をしているのでしょうか。
この点を今回は掘り下げていきたいと思います。

2.年間休日数は評価しない労働基準行政

(1)休めている日本の労働者

日本は祝日の数は世界第3位です。16日の祝日は非常に多く、それに加えて夏季休暇や年末年始休暇など年次有給休暇ではない休日があり、それを含めると2014年のデータですが、年間24日の休日があります。
この24日は公休日でもなく、年次有給休暇でもない会社から労働者へプレゼントしている休日数です。
日本の労働者は年次有給休暇を取得しなくても120日から125日休めているのです。
1年の3分の1が休日という事になります。
これは日本の休暇政策が「みんなでいっぺんに休みましょう」というものだからです。
しかし働き方改革により「子育てをしている労働者が働きやすい環境を作る」ということで「マイペースに休みましょう」という休暇政策に転換されたわけです。
日本は年次有給休暇の取得率は国際比較で低いとされています。
しかし年次有給休暇以外の休日数が多いので、年間休日数は世界トップクラスです。
国際比較の対象の国では、「夏季休暇」や「年末年始休暇」は年次有給休暇を使用しています。
12月29日から1月3日までを年末年始休暇とすると、祝日である元旦を除けば6日の休暇を労働者にプレゼントしていることとなります。
日本の労働者は休めているのです。

(2)年次有給休暇の取得推進

労働基準行政の視点は「年次有給休暇の取得推進」です。
年間休日数が105日の企業であろうと、130日の企業であろうと休日数の評価は労働基準監督署は行いません。「年間休日数がこれだけ多いのだから年次有給休暇を取得する日は限られてしまいますね」という発想はありません。
どんなに休日が多かろうと、年次有給休暇の取得率を指摘します。日本人は阿吽の呼吸を大事にしてきた文化ですから「年間休日数が多いから年次有給休暇は取りずらいけど実質的に付与しているよね」というコミュニケーションがあったとしても法律は評価しません。
年間休日数を評価しない点が働き方改革の問題点なのです。

(3)残業時間と年間休日数の関係

年間休日数が増えれば労働日が少なくなり、1日当たりの業務量が増えます。だから残業が多くなってしまうのです。
天皇陛下のご即位で今年の5月は10連休でしたが、金融機関や行政機関がしっかりと休むので連休前の業務量が多く、残業時間も非常に多くなりました。
しかしその後は10連休をとれますので、一日平均の労働時間は低いのです。しかし10連休前の一週間は非常に残業が多くなりました。
この点も労働基準行政は評価しません。
10連休取得が出来ている会社で、その前後の残業が多い会社と、10連休を取得させずに仕事をやらせて残業が少ない会社では、後者の会社の方が評価されます。
すなわち残業時間が少ないかどうかが評価の対象であり、休日数が多いのか少ないのかは法定休日や所定休日に休めていれば評価の対象になりません。

(4)年間休日数で判断する制度に改革を

この様に年間休日数が多くても評価されずに、逆にその様な会社ほど年次有給休暇の対策に困っています。
年次有給休暇の取得率向上を目指すにしても年間休日数で判断しなければなりません。
例えば5日の年次有給休暇の強制付与についても年間休日数が125日以上の会社は免除、120日以上の会社は3日、それ未満の会社は5日というように年間休日数により付与日数を変えなければ今まで真面目に休日を増やしてきた会社の努力が報われません。
残業規制も同様で、年間休日数が多い会社は年間の労働時間が少ないわけですから、年間休日数が125日以上の場合には月50時間まで残業していいですよとならなければ休日数を増やして職場環境を改善してきた企業の努力が報われない訳です。
真面目に努力してきた企業ほど今回の制度により苦しい状況に追い込まれているのです。
この点はしっかりと政治が考えなければならないと思います。

3.業種一律の残業規制

労働基準法はサービス業には厳しい法律だと言われています。戦後出来た労働基準法は、戦後の物不足の中、その解消の為に設備投資をしていた製造業を前提に考えた法律だと言われています。
施行された昭和22年にはスーパーもありませんし、テーマパークもありません。
サービス業は所謂家族経営の店舗が多く、百貨店などの大規模なサービス業は少なかった時代でした。当然その様な環境ですから製造業を意識して立法されても不思議ではありません。
残業規制についても同様の価値観があります。
1人がミスをするとその生産ラインが止まってしまう製造業では所定労働時間集中して仕事をしなければなりません。当然残業をすることは神経をすり減らすこととなります。
しかしサービス業ではどうでしょうか。
お客様がいない時間帯に従業員同士が話している。
営業職が時間調整で喫茶店にいる。
自分のペースで小休憩をとることが出来る事務職。
様々な働き方があります。
この様な場合、細々とした休憩を取得しているのですが、記録できないために拘束時間を労働時間とみなして残業時間を算出しています。
煙草を吸うのならタイムカードを押しなさいとは言えません。それに対応したタイムカードがないからです。執筆日は9月12日ですが、ある職場でZOZOの社長の辞任が就業時間中に話題になっていました。この様な時間も厳密に解釈すれば休憩と解釈できます。スマホでプライベートの情報を検索してそれを同僚と話しているのですから。
しかしそれを記録することは困難です。ですから労働時間として算出してしまっているのです。
残業規制も業種一律ではなく、業種により差をつけることが現実的なのです。
教員の働き方改革が叫ばれていますが、夏休みは児童、生徒の指導を殆どしません。
夏休みが長ければ当然二学期や三学期の業務量が増えるわけです。
夏休みには児童や生徒指導のプレッシャーから解放されています。
その視点を欠いた議論はおかしいわけです。児童や生徒を置き去りにした働き方改革が教育現場で進んでいるのです。
この様に様々な働き方があり、一律に規制をすることは困難なはずなのです。経済活動や社会活動の根幹である労働に対する規制はもっと慎重に、実態に合ったものにしていかなければ、救急医療や教育、インフラとしての小売業が崩壊してしまうのです。
この点を政府にしっかりと理解していただき、法案を修正していかなければ中小企業の体力を奪うだけの制度になってしまうのです。
どうぞ皆様もこの点を踏まえて対策をした頂きたいと思います。

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