社員を採用しても忙しさが変わらない理由【業務を分ける】
1. 売上げに組織がついて行かない理由
全て順風満帆にビジネスが行えるということはありません。
必ず壁に当たります。
私は「階段の踊り場」という表現をよく使いますが、上へ行くのか、下へ行くのかというターニングポイントがたくさん訪れます。
例えば、起業をして売上げは順調に推移しているにもかかわらず、組織が売上げの増加についていけなくなり、業務処理が追いつかない。
この様な事例は非常に多く、たたき上げの社長ほどこの様な状態を気合いで乗り越えようとする傾向があります。
組織は売上げの額や社員数に応じて、適した体系にしていかなければなりません。
売上げが順調でも、組織の業務処理が追いついていかない理由は、「組織をどの様に現状に適応させるのか」という課題に経営者が取り組んでいないからです。
企業を維持する為には、この取り組みを経営者は常に行う必要があります。
2. 人を増やしても社員の負担は変わらない理由
忙しいから、採用して社員を増やしても全く改善されない。この様なご相談をよく受けます。
この理由は簡単です。
能力がある人に仕事が集中している仕組みを変えていないからです。
人に仕事を教えるということは非常に労力がいります。
この労力を、目の前の業務に精一杯の社員に負担しろといっても簡単には出来ません。
ただ単に社員を増やしても人件費が増加するだけで、能力がある社員への業務集中は改善されないのです。
仕事のやり方を見直さなければなりません。
3. 業務を分けるという考え方
なぜこの様な事を偉そうに話すかというと、私自身が経験したからです。この経験を基にコンサルティングを行えるようになりました。
私の事務所もお陰様でクライアント数も増え、社員を増員しました。
しかし忙しさは全く変わらず、人件費が増えるだけの結果となりました。
能力がある社員、私の事務所ではコミュニケーションスキルや事務処理能力の高い社員ですが、この社員に仕事が集中してしまう。
そこで「能力の高い社員には誰でも出来る作業をやらせない」「単純作業は単純作業だけを行う社員にやらせマニュアル化する」という方針で組織を見直しました。
「事務集中グループ」という部門を「担当業務グループ」から独立させ、単純作業を忙しい社員から分離しました。
これは非常に成果があり、ひとりひとりのパフォーマンスは向上しました。
4. 経営者の仕事として習慣化するべき
経営者がこの作業を行わなければなりません。
分離できる作業は何かを分析して実行する。この場合に意思疎通がしっかりと図れる仕組みをつくった上で実行しなければなりません。
忙しい社員は時間がないのです。現場に任せていても、目の前の作業で精一杯なので先には進みません。
「階段の踊り場」に差し掛かった企業は、この問題を抱えている企業が多いのです。
5. 育成という投資の重要性
教育にどれだけその企業が費やしたかという事は財務諸表に現れてきません。
教育研修費の数字だけではそれはわかりません。
財務内容がどんなに素晴らしい会社でも、少ない資金で大きな利益を生む素晴らしいビジネスモデルでも、そこに属人的な能力が必要であれば、キーマンの退職で事業が行き詰まることも少なくありません。
これは経営や財務を考えるときに、人材育成という投資を重視していなかった結果であります。
6. 「教育」と「組織づくり」を同時にしなければ人材投資は意味がない
設備投資という未来への投資をしなければ企業の継続はありません。人材についても同様ですが、人材というのは先行投資です。
そして投資の効果が現れるまで時間がかかります。
設備投資と大きく違うところは、投資しただけでは効果が現れません。教育をして一人前にすることと、人員数に応じた最適な組織を作る継続的な努力が必要です。
「教育」と「組織づくり」を同時に、そして継続的に行っていかなければ人材投資の効果は現れません。
組織づくりは経営者が習慣として継続的に行わなくては前に進まないのです。
私も組織づくりを疎かにしてしまう時期もあります。しかし、これを認識しているかどうかで人材投資の効果が大きく左右されるということは間違いありません。
悩んでいる方は、是非ともご参考にしてください。
「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第14回 No.735 2011.1.25号」