有期労働契約の無期転換に関する特例について
1. はじめに
労働契約法が改正され、平成25年4月1日以降、新たに有期労働契約を締結するか、更新した場合で当該日から5年を経過すると、労働者の申し入れにより期間の定めのない労働契約に転換される、というルールができました。この改正の意図は、労働者の雇用の安定でした。
もっとも、法改正前でも、東芝柳町工場事件や日立メディコ事件の判例により、有期労働契約の労働者の「雇止め」について解雇権濫用法理が準用されるということが確立されており、客観的合理的理由のない雇止めについては無効であるということになっています。
有期労働契約を無期転換とすることに、どれだけ意味があるのか疑問でしたし、有期労働契約を無期転換にする期間が5年であれば、そもそも5年を労働契約の更新の上限とした有期労働契約を結べば良いことになり、かえって労働者の立場を不安定にしてしまうと、法案の段階から連載を通して指摘してきました。
改正法が施行されると、有期労働契約を更新回数の上限が無い契約内容から5年を上限に変更するなどの事例が発生し、この法律の問題点が明らかになっています。
それを解決するために今年4月1日に「有期雇用特別措置法」が施行されます。
特別措置の対象者は、高度専門知識をもつ有期労働契約労働者と定年後再雇用されている労働者です。
2.高度な専門的知識を持つ有期労働契約者
5年を超える一定の期間内に完了することが予定され、専門的知識等を必要とする業務に従事する、一定の収入以上の労働者が「高度専門職」です。
この場合、その業務に就く期間は無期転換されません。ただし、その期間が10年を超える場合には10年を上限とするとされています。この労働者を法律では「第一種特定有期労働者」と言います。
3.定年後再雇用された労働者
定年後に同一の事業主または一定の要件を満たしたグループ会社等(特殊関係事業主)に、引き続き雇用される有期労働契約労働者が「継続雇用の高齢者」です。再雇用の期間については、無期転換申込権が発生しないという取り扱いになりました。この労働者を「第二種特定有期労働者」といいます。
ただし、定年前から有期労働契約を締結している場合には、この特例には該当せず、原則通りの扱いとなります。
4.特例適用の手続き
(1)概要
この特例を受けるためには、事業主は対象労働者の雇用管理に関する計画を厚生労働大臣に申請し、認定を受けなければなりません。この計画内容は、第一種と第二種で違います。
(2)第一種計画
第一種特定有期労働者である、高度な専門知識を有する有期労働者に対して、特例を申請する場合です。
計画で定める内容は以下の通りです。
・対象労働者が就く特定有期業務の内容
・特定有期業務の開始及び完了の日
・対象労働者が能力の維持向上を自発的に図る機械の付与等雇用管理に関する措置の内容
・その他厚生労働省令で定める内容
労働基準法第39条による年次有給休暇の他に、対象労働者が研修等の機会を受けられるような有給休暇の付与などが求められます。
(3)第二種計画
第二種特定有期労働者である、定年後再雇用される有期労働契約の労働者に対して、特例を申請する場合です。
・対象労働者の配置
・対象労働者の職務及び職場環境に関する配慮
・対象労働者の特性に応じた雇用管理に関する措置の内容
・その他厚生労働省令で定める内容
健康状態などに配慮して一定の措置が求められます。
(4)結論
どれだけの企業がこのような申請をするのか疑問に思います。特例措置に拠らなくても十分に対策はたてられますので、特例措置の申請をご検討の方は、是非ともご相談頂きたいと思います。
5.研究者・教員の特例
なお、研究者・教員についても平成26年4月1日から特例が施行されています。
労働者からの申し出により有期労働契約から無期労働契約に転嫁する年数を5年から10年とする特例です。
研究者・教員の特例の対象者については以下の通りです。
(1)人文科学のみに係るものも含めた科学技術に関する研究者または技術者であり、その補助を行うものも含めて大学等を設置する者又は研究開発法人との間で有期労働契約を締結したもの。
(2)研究開発又は研究開発の成果の普及若しくは実用化に係る企画立案、資金の確保並びに知的財産権の取得及び活用その他研究開発等に係る運営及び管理に係る専門的な知識及び能力を必要とする業務に従事する者であって大学等を設置する者又は研究開発法人との間で有期労働契約を締結したもの。
(3)大学等、研究開発法人及び試験研究機関以外のものが大学等、研究開発法人又は試験研究機関との協定その他契約によりこれらと共同して行う共同研究開発等(以下「共同研究開発等」という)の業務に専ら従事する科学技術に関する研究者などであって当該大学等、研究開発法人または試験研究機関以外のものとの間で有期労働契約を締結したもの。
(4)共同研究開発等に係る運営管理に係る業務に専ら従事するものであって当該共同研究開発等を行う大学等、研究開発法人又は試験研究機関以外の者との間で有期労働契約を締結したもの。
(5)大学の教員等の任期に関する法律(任期法)に基づく任期の定めがある労働契約を締結した教員等。教員等とは、国立大学法人、公立大学法人及び学校法人の設置する大学(短期大学を含む)の教員(教授、准教授、助教、講師及び助手)大学共同利用機関法人、独立行政法人大学評価・学位授与機構、独立行政法人国立大学財務・経営センター及び独立行政法人大学入試センターの職員のうち専ら研究又は教育に従事する者であり、常勤、非常勤を問いません。
6.まとめ
有期労働契約を一定期間経過後に期間の定めのない労働契約に転換させても、労働者保護にならないことが明らかになり、特別措置法によりその修正が行われました。
しかし、対象者が極端に少ないケースだったり、問題の先送りだったりなど、本質的な解決が図られていません。
そもそも、有期労働契約が無期転換になる仕組みに問題があったのであって、その原因である有期労働契約の無期転換を廃止すれば、問題は解決するものと思います。
実務や実態を知らない人たちが作った理想に基づく法律なのです。
それでも法律がある以上、しっかりと皆様にお知らせし、対策をお話しすることが使命ですので、今回のテーマとさせていただきました。参考にしてくだされば幸いです。
「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第63回 2015.3.24号」