人事分野のリスクについて【人事分野のリスクは十分な対策が立てられる】
1.はじめに
私が社会保険労務士として仕事を始めて来年で13年目に入ります(※平成21年12月現在)。
様々な経営者の方と議論をして感じることは、「人事のブレーン」となりうる人材が不足しているという点です。
取引上のリスク、税務上のリスクについては税理士や弁護士という専門家とのコミュニケーションにより対策を立てている企業が多いですが、「人事の分野」についてはそれほど多くはありません。
一方で、人事分野についてのリスクを感じている経営者は少なくないという現状があります。
人事分野のブレーンがいれば、しっかりとしたリスクへの対策は立てられるのです。
労働法に対する様々な“誤解”もこのブレーンが存在していれば解消すると考えます。
経営者の皆様に“誤解”の解消をしていただきたく情報発信をしていきたいと思います。経営者として最低限知っておきたい「人事の基礎知識」としてお役立てください。
2. 利益から人事分野のリスクを考えてみる
利益が10あったとします。しかし、残業代の支払いをしておらず、残業代を支払った結果、利益が3しかなくなりました。
こんな状況を想像してみてください。
残業代は継続して発生しますから、今後も利益は3の水準で継続していくとします。
金融機関は今までの取引条件で融資してくれるでしょうか?
取引上の与信に影響はないでしょうか?
「労働基準法は守れない法律だ」「労働基準法を守っていたら会社はやっていけない」。この様なお話をよく聞きます。
しかしこれでは人事分野のリスクはいつまで経っても軽減されません。
3. 人件費を増やさないで、法律が守れる方法はないのか?
この様な思いを抱いている経営者の方が多いと思います。
実はこれに近い事を出来る可能性があります。
「残業を予算化する」という単純な方法があります。
4. 賃金の正しい決定方法① 【残業手当の予算化をする】
「残業手当の予算化」についてお話し致します。
4-1. 残業という視点の欠如
皆さんはどの様にして従業員の賃金を決めているでしょうか。
面接をして、従業員の経験や人格、知識等を総合的に勘案して“この賃金額で採用!”と決めている社長さんが多いと思います。
この賃金の決定方法は間違っているわけではありません。しかし、ある視点が抜けています。それは“残業”と“法定福利費”という視点です。
4-2. 正しい賃金の決定方法
例えば、“30万円の予算で採用しよう” とした場合、従業員に30万円支払ってしまえば、当然残業を支払う予算はありませんし、社会保険に加入させる予算もありません。 人事分野以外では当たり前にやってきた「予算」という概念が、従業員の賃金決定に活かされていないが為に「残業手当が支払うことが出来ない」「社会保険に加入させることが出来ない」という事態になってしまいます。 30万円の予算で採用する場合には、約13%を法定福利費として、総支給額を26万円とする。 そこから、自社の残業時間は何時間程度であるか考え、固定的な賃金と時間外手当の賃金の配分を決定する。 これが正しい賃金の決定方法なのです。これをまとめたものが下の図です。 しかし、残業代を予算化した場合、固定的賃金が低くなり、閑散期の賃金が少なくなってしまいます。この点についても対策があります。「定額残業制度」というものです。
「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第1回 No.679 2009.12.8号 第2回 No.683 2010.1.12号」