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人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第142号
改正労働者派遣法の検討

1.はじめに

現在参議院にて審議されている労働者派遣法改正案。
施行日を平成27年9月1日に予定している中で法案が未だ成立していません。実務家としてはそのスケジュールで準備を進める必要があるために、法案成立前でありますが、改正案の検討を行いたいと思います。
詳細が不明な点が若干ありますので、その点も含めて今回お話しをさせて頂きます。

2.労働者派遣事業の許可制

(1)概要
現行法では労働者派遣事業については「一般派遣が許可制」「特定派遣が届出制」となっております。
特定派遣については、派遣元事業主に常態として雇用されている前提ですから、派遣先で仕事がなくなり、当該派遣契約が終了しても失業しないということで届出制になっています。
しかし「常態として」の概念が所謂無期雇用ではなく、有期雇用契約を更新している場合、派遣契約が終了と同時に有期雇用契約の雇い止めが行われる等の問題が生じたために、派遣事業については「特定」と「一般」の区別をやめ、全て許可制に統一するということになりました。
但し改正法の許可要件は現在の許可要件よりもハードルが高くなります。ですから現在一般派遣事業の許可を取得している派遣会社であっても改正後に今の体制で許可が全て下りるということはないと考えられます。

(2)経過措置
一般派遣についてはその有効期間満了日まで現行法の許可で労働者派遣が行われます。
更新の際に新たな許可要件にて審査される事となります。
特定派遣については、施行日から3年を経過する日まで「常雇用される労働者のみである労働者派遣」を行う事ができる経過措置が設けられました。
特定派遣の事業主が、常時雇用されていない労働者を派遣する場合には改正法の要件で新たに許可を取る必要があります。
現在、特定派遣を行っている事業主で派遣労働者の数が少ない派遣元事業主に対しては、新たな許可要件のうち、事業の財産的基礎となる資産要件等について一定の軽減を検討しているようですが、現在のところ具体的になっておりません。

3.特定有期雇用派遣労働者等の雇用安定の措置

(1)特定有期雇用派遣労働者
同一の単位組織の業務について1年以上の期間当該労働者派遣に係る労働に従事する見込みがあるものとして厚生労働省が定めるものを特定派遣労働者と定義しています。
一年未満の期間労働者派遣に係る労働に従事する場合には、この特定派遣労働者に該当しないということになります。
名称の様に有期雇用が前提であり、期間の定めの無い派遣労働者についてはこれに該当しません。

(2)特定有期雇用派遣労働者への雇用安定措置
第一に、特定有期雇用労働者を直接雇用してもらえるように派遣先に依頼すること。
それが実現できなければ、派遣先事業所の確保や派遣元事業主が期間の定めの無い労働者として雇用する等の措置を執りなさいという内容です。

「同一の単位組織に3年以上従事する見込みがある」場合にはこれは措置義務となり、1年以上3年未満であれば努力義務となります。
あくまで派遣期間の実際の長さではなく、派遣期間の見込みである事に注意が必要です。
努力義務としたい場合には労働者派遣契約書などで「派遣期間の上限は3年未満とする」等の対応が必要になってくるでしょう。

(3)教育訓練について
派遣労働者が「有期」でも「無期」でもこの措置は必要になります。
具体的には「派遣労働者に対して計画的な教育訓練を実施する義務」と「希望する派遣労働者へのキャリアコンサルティングを実施する義務」を行う事とされており、体制の構築が必要となってきます。

4.派遣期間の制限

(1)専門26業種の廃止
今まで派遣期間の制限の適用除外がなされていた「専門26業種」については廃止され「業種についての派遣期間の制限の違い」が無くなります。
しかし派遣期間の制限の上限は残りますが、雇用形態で区別されます。
期間の定めの無い労働契約を締結している派遣労働者については派遣期間制限は適用されません。
今回の改正法では、派遣労働者を派遣元事業主に「無期雇用」させる事を促す仕組みが多くあります。
派遣元事業主に無期雇用させることで派遣労働者の雇用の安定を図っていこうとの政策によるものです。
ですから以下でお話しをするのは有期雇用契約の派遣労働者にのみ該当する話です。

(2)個人単位の派遣期間制限
個人単位では、特定の派遣労働者を3年を超えて同一単位組織に派遣をする事ができないとされています。
3年を超えた場合には、労働契約申し込みみなし制度の対象となります。

この同一組織単位の概念ですが、未だ明らかではなく、現行法の「同一業務」で考えられている「係」より広く解釈され「課」単位ということがいわれていますが、現在のところ明らかになっておりません。

また「雇用の機会の確保が特に困難である派遣労働者であってその雇用の継続等を図る必要があると認められるものとして厚生労働省令で定める者」も例外となっておりますが、これは60歳以上の労働者等が想定されます。

(3)事業所単位の派遣期間制限
事業所単位の派遣期間の制限も3年を上限としていることは変わりませんが、こちらは更新が出来ます。
個人単位の派遣期間の制限がありますから、派遣労働者は違う労働者にならなければなりませんが、一定の条件の下で更新が出来るのです。

更新の条件は「派遣可能期間抵触日の1ヶ月前までに厚生労働省令で定める手続きをする事」で、その際に「派遣可能期間抵触日の1ヶ月前までに過半数労働組合等(労働組合がない場合には事業場の過半数代表者)に意見を聴取すること」となっています。
この過半数労働組合等には「意見聴取」をすることが求められており、「同意」までは求められておりません。
仮に過半数労働組合等が「異議」を述べた場合でも更新することは出来ます。しかし異議を述べた場合には「派遣可能期間を延長する理由を過半数労働組合等に説明」しなければならず、これは「派遣可能期間が経過することとなる日の前日」までにしなければなりません。

5.派遣労働者の均等待遇化の強化

同じ事業場で働いている派遣先事業主の社員と同じ様な待遇をする様に配慮義務等が課されています。

「賃金水準に関する情報」や「当該労働に従事する労働者の募集に関する事項」は提供義務が課され、提供することが求められています。

また「派遣先事業主が雇用する労働者に対して実施する教育訓練についても、当該労働者と同種の業務従事する派遣労働者について実施するように配慮する義務」や「福利厚生施設についても同様に派遣労働者に利用の機会を与えるように配慮する義務」が課されることとなっています。

6.まとめ

今回の改正法では、期間の定めの無い労働契約を締結している派遣労働者については派遣期間の制限がなく派遣労働に従事できることとなっています。
個人単位の派遣期間制限も理不尽ですが、派遣元事業主に無期転換を促す仕組みと考えると改正法の趣旨が見えてきます。
しかしながら派遣元事業主は、派遣先事業主に労働者を派遣しなければ売上げは上がりませんから、この政策で派遣労働者の雇用が安定するとは思えません。
専門26業種については、当該業種に係る労働者の無期転換により対応が出来ると思いますが、全ての派遣労働者がそれで雇用の場を維持できるわけもなく、改正法を期に派遣契約の解除がなされるケースも想定されます。
参議院で審議中ですが、大幅な改正はなさそうであり、実務家としては政争の具にする様なことは勘弁願いたいと思います。
法案が成立して詳細がわかりましたら皆様にお知らせしたいと思います。

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