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人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第117号
労働基準法第26条の休業手当と民法の反対給付請求権の関係

1. はじめに

使用者の責めに帰すべき事由で休業した場合、労働基準法第26条により平均賃金の60%の休業手当を支給しなければなりません。

最近、この休業手当の60%ではなく、100%の賃金を請求してくるケースも見受けられます。
民法においても「債権者の責めに帰すべき事由により履行不能の場合には債務者は反対給付請求権を有する」とされています。
債権者とは使用者であり、債務者とは労働者です。
労務の提供が使用者の都合でなされない場合は、その反対給付である賃金の請求権を債務者である労働者は失わないという考え方です。
実際はどうなのでしょうか。
掘り下げて考えてみたいと思います。

労働基準法第26条による休業手当については、使用者の責めに帰すべき事由により休業する場合には、平均賃金の60%以上の賃金を支払うこととされています。

しかし使用者の責めに帰すべき事由で休業している以上、100%の賃金を支払う必要があるのかという問題が生じます。
民法では使用者が「故意、過失または信義則上これと同視すべき事由」が存在する場合には受けるべき賃金の全額を受領出来る権利があるとされています。

2. 民法における使用者の責めに帰すべき事由

民法上の反対給付請求権については「故意、過失または信義則上これと同視すべき事由」について保障をすることとされています。
この帰責事由の判断に当たっては債務の履行不能の原因が、以下の2つの要件を満たす必要があります。
第一にその原因が企業の外部より発生したものであること。

第二に、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避ける事の出来ない事故であること。

ですから材料の遅延や不況などでやむを得ず休業した場合でも、上記の2点を満たさない限り、反対給付である賃金の請求権は生じない、すなわち休業をさせた労働者に休業保障をする必要が生じないという結論になります。

しかし、これでは労働者の生活が不安定になってしまう恐れがあります。
労働基準法において、この使用者の責めに帰すべき事由の範囲を狭めることで、労働者保護につなげようと設けられたのが労働基準法第26条による休業手当です。
この休業手当は、反対給付である賃金の全額ではなく、平均賃金の60%としたことにより事業主にも一定の配慮をしたかたちで、休業手当の支払いに強制力を持たせました。

3. 労働基準法第26条による休業手当

労働基準法では民法による反対給付である賃金のうち平均賃金の60%に当たる部分の支払いを罰則によって担保し、そしてその対象となる使用者の責めに帰すべき事由の範囲を拡大しました。

例えば、使用者の故意または過失とはいえない原材料の不着や不況による休業も労働基準法ではその保障対象としています。

労働基準法第26条による休業手当については、「その原因が企業の外部より発生したものであること。」「事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避ける事の出来ない事故であること。」の要件を拡大して、事業主の監督、干渉が可能な範囲における人的、物的の全ての設備は事業の内部に属するという解釈をとっています。

この様な解釈により使用者の責めに帰すべき事由が拡大して労働基準法26条の休業手当の対象を広げて労働者保護につなげるという立法になったのです。

4. まとめ

民法上の請求権が発生し得ない事由であったとしても、労働基準法第26条による休業手当を支払うこととされるのです。

よって「労働基準法第26条による休業手当の支給要件=民法による反対給付請求権の支給要件」とはならず、民法による反対給付請求権の支給要件を満たすには使用者の故意、過失または信義則上これと同視すべき事由の存在が必要になるのです。

労使間において特約があった場合を除き、不況による休業については経営者の故意、過失とは言えず、民法による反対給付請求権の発生要件を満たしているとはいえないこととなり、労働基準法第26条による休業手当で足りるとの結論になります。

よって労働基準法26条による休業手当の対象となった場合でも、無条件で全額の賃金を保障されるという事は無く、前述の通り、その要件を満たしているのか個別に検討をしていく必要があるのです。

使用者の責めに帰すべき事由の範囲が、労働基準法と民法では違うということを理解しておく必要があります。

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