KNOWLEDGE OF PERSONNEL AND LABOR

人事・労務の知識

年次有給休暇の国際比較は年間休日数で比較しなければ意味が無い

1. はじめに

 政府は年次有給休暇の取得率を向上させるため「年次有給休暇の取得日を使用者に明示させる」内容の労働基準法改正案をまとめています。
現在の労働基準法は、労働者が「年次有給休暇を取得したい」と言えば取得させる仕組みであり、労働者が「取得したい」と言わなければ取得させなくてもいい内容です。
これでは年次有給休暇の取得率が向上しないので、労働者からの請求を待たずに、使用者が「この日に有休を取ってください」と明示する制度を作ることにより、年次有給休暇の取得率を向上させようとしているのです。

2.日本の年次有給休暇取得率は低いが

表1 エクスペディア年次有給国際比較調査2014より

国名有給休暇付与日数有給休暇取得日数有給休暇消化率
ブラジル30日30日100%
フランス30日30日100%
スペイン30日30日100%
オーストラリア25日25日100%
香港14.3日14日98%
シンガポール16日14日88%
メキシコ14.7日12日82%
イタリア28日21日75%
インド20日15日75%
アメリカ19日14日74%
日本20日10日50%
韓国14.6日7日48%

表1の通り、我が国の年次有給休暇取得率は50%で、韓国に次いで低い率となっています。
ところが、香港の付与日数が14.3日ですが消化率は98%なので、取得日数に関しては我が国と4日しか変わりません。
消化率は分母の大きさで変わってきます。「率」で比較することは意味の無いことなのです。

3.年間休日数で比較するべき

年次有給休暇は休暇の一形態であり、年次有給休暇のみを国際比較することは妥当ではありません。
表2をご覧下さい。

(表2 マーサー2013 Worldwide Benefit and Employment Guidelines)

ランキング法定休日日数(2014)ランキング法定休日日数(2014)
1インド188スウェーデン11
1コロンビア188中国11
2タイ168ニュージーランド11
2レバノン168シンガポール11
2 韓国168カナダ11
3日本158デンマーク11
3アルゼンチン158フランス11
3 チリ158イタリア11
3フィンランド159ウクライナ10
4トルコ14.59ベトナム10
5インドネシア149ポーランド10
5マレーシア149ラトビア10
5フィリピン149アメリカ10
5ロシア149ベルギー10
5ベネズエラ149ルクセンブルグ10
5モロッコ149ノルウェー10
5マルタ149ポルトガル10
5スペイン1410ルーマニア9
6スロバキア1310オーストラリア9
6パキスタン1310ボリビア9
7スロベニア1210エクアドル9
7香港1210プエルトリコ9
7中華民国(台湾) 1210アラブ首長国連邦9
7 チェコ 1210ドイツ9
7リトアニア 1210アイルランド9
7ブラジル 1210スイス9
7ペルー 1210セルビア9
7南アフリカ 1211オランダ
8
7オーストリア 1211イギリス
8
7キプロス1211ハンガリー
8
7ギリシャ1212メキシコ7
8クロアチア11

我が国の祝祭日は15日です。15日は世界で3番目に多い国となっています。しかも我が国では夏季休暇と年末年始休暇以外で取得します。夏期休暇を3日、祝日である元日を除く12月29日〜1月3日の5日間の年末年始休暇を取得すると、祝祭日数15日に8日を加えて23日となります。すると、1位のインドとコロンビアの18日を抜き、トップとなります。
この23日に平均年次有給休暇取得日数である10日を加えると33日となります。
表1に表2の休日数を加えたものを年間休日数の国際比較として表3にまとめました。

表3 年間休日数の国際比較表

国名年間祝祭日日数有給休暇取得日数合計取得休暇日数
ブラジル12日30日42日
フランス11日30日41日
スペイン14日30日44日
オーストラリア9日25日34日
香港12日14日26日
シンガポール11日14日25日
メキシコ7日12日19日
イタリア12日21日33日
インド20日18日38日
アメリカ10日14日24日
日本23日10日33日
韓国26日7日33日

年次有給休暇取得日数と祝祭日数を加えた休日数で比較すると、イタリアの33日と同じ数字です。決して低い数字ではありません。
韓国に次いで下から2番目の年次有給休暇取得数が、年間休日数で比較すると上から6位になります。年次有給休暇の議論は、年間休日数で行わなければ意味がないということです。

4.我が国の休暇政策

年間休日数は国際的に見ても遜色ありません。
欧米の休暇の取り方は個人の年次有給休暇を主体としており、長期休暇の文化があります。
我が国の休暇の取り方は祝祭日主体で、個人というよりは一斉に休むという文化です。
この祝祭日に営業をしなければならないサービス業では、年間休日数が少ないのも頷けます。
この文化の違いを認識して休暇政策を考えなければ休日数を徒に増やし、企業の経済活動に支障をきたしてしまいます。
年次有給休暇主体の休暇文化にするのであれば、祝祭日は労働日とすればいいのです。
休暇の取り方を含めた労働の価値観は、その国の文化が反映されます。
年次有給休暇だけを取りだして、その取得日数を増やすのであれば、祝祭日を労働日としていなければなりません。夏季休暇も年末年始休暇も有給休暇で休んでくださいという仕組みにしなければなりません。「休暇」という文化をどのように変えていくのかという問題なのです。
年次有給休暇の取得日数の議論については、祝祭日の日数を加えて考えていかなければならないという問題提起をさせて頂きました。
参考にして頂ければ幸いです。

「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識  第61回  2015.1.27号」

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